
Analog3 では VCA を多数使う必要があります。そのため VCA のユニット化に挑戦しています。リソースは Github に上げてあります。
https://github.com/naokiiwakami/vca-unit
このユニットは無調整で動作させるつもりで設計しましたが、実際に組んでみると、出力にオフセットが出てしまいます。これは CV 漏れとして音質上問題になるので良くありません。ところがこの原因がなかなかわからず苦しんでいます。この記事はここまでわかったことのまとめです。
以下が VCA ユニットの回路図です。問題は、入力電圧が0V の時にいくらか、例えば 5V の CV を入れると、出力に電圧が出てしまいます。ユニットによってばらつきがあって、いくつかは実用上問題ないレベルのオフセットに収まっており、ひどいものは 5V の CV を入れると出力の絶対値は 1V を超えてしまいます。

もっとも怪しいのが Q3 の不均衡ですが、 以前の検討では捕まえられませんでした。ただ、他の部分、例えば Q3 ベース電圧、R6 と R7 の値、R9 と R10 の値、オペアンプ U1A のオフセットなど全て問題ないことを確認しています。
Q3 に不均衡があれば、回路図の diff_in+ と diff_in- の電位差として現れるはずですが、U1A の負帰還のせいで電位差は能動的に相殺されてしまいます。ということで、この二つのネットを取り外して R6 と R7 の両端電圧を測定すれば不均衡があるかどうか確認できるわけです。ただ、基板を壊さずにそれを確かめるのはけっこう厄介です。前回はグダグダになってしまい現象が捕まえられませんでしたが、今回は基板を加工したりせずにただ U1 と R9、R10 を外してみました。ただ、こうすると、U1B で組んだ定電流回路が死んでしまうので、Q1 に強引に CV を入れました。精度は悪くなりますがここではいくばくかの CV が入っていれば十分なので構いません。

この回路に約 5V の CV を入れて各部の電位を測ってみました。

ついに突き止めました。R6 と R7 の両端電圧が違っていて、これはもうトランジスタの不均衡です。BC857BDW1 はペアトランジスタですが別にマッチングが取れているわけではありません。これは設計の早い段階から懸念事項だったのですけれどもデータシートでこれを確認するデータを見つけられず、実験でもなかなか確認ができず見切りで製作を開始していたわけです。
対策としては
- BC857BDW1 をマッチングの取れている別トランジスタに差し換える
- BC857BDW1 のマッチングを確認して選別する
前者の方法としては、BCM857 というマッチングペアトランジスタがありこれと差し換えられそうです。しかし手配には時間がかかるので、BCM857 が届くのを待つ間(正確には特性のほぼ同じな BC867 を手配しました)、手持ちの BC857BDW1 のマッチングをとって特性の揃ったものを U3 に使ってみました。
具体的には以下の記事で紹介した方法でマッチングを取りました。
結果、BC857BDW1 の特性はびっくりするぐらい揃っていないことがわかりました。正直このトランジスタは差動回路やカレントミラーなどマッチングの必要なアナログ回路には全く適していないんじゃないでしょうか。これを知らなかったがための VCA 大暴れの線が強まってきました。
BC857BDW1 の中では特性の揃ったペアは一割あるかどうかというぐらい少ないですがそれでも何とか見つけてブレッドボード上で VCA を組んでみました。今までの検討から、U3 のエミッタ同士の電位差には非常に敏感なことがわかっているので、憂いを断つためにエミッタ同士はブレッドボードのピンではなくスズメッキ線を直接はんだ付けします。ブレッドボード上の回路が汚らしいのはご勘弁

結果、ブレッドボード上の回路では良い特性が得られました。以下の写真は CV に 5V を入れた時の出力オフセットです。数10 mV ぐらいなら CV 漏れとして聞こえることはありません。

この記事は複数日にわたって書いているのですが、モタモタしているうちに BCM556 も届きましたので同様にブレッドボードで VCA を組んでみます。

こちらも無選別でぱっと組んだ割には悪くない結果でした。同じく CV 5V の時の出力オフセットです。

ここまででまず、無調整 VCA の回路設計自体の問題は潰れてきました。少なくとも回路には問題がないようです。
ではこのマッチングのできたトランジスタを VCA ユニット基板に載せるとどうなるでしょうか?
ここでは結論だけ。オフセット電圧問題は解決しませんでした。基板の設計に何か問題があるのかもしれません。
この記事ではとりあえずここまで。