現在 VCF 製作準備中。苦手なアンチログ回路が出てきます。理屈がわからなくても作ることはできますが、温度補償 0.3%/℃の 0.3 はどこから来るのかなど謎に思うことが多いので、アンチログ回路の成り立ちを勉強してみました。まずは何で温度補償が必要かというところまでは理解したのでそこまでまとめてみました。
アンチログ回路
まえおき
オクターブ/V で周波数を制御するタイプのシンセサイザーでは、アンチログ回路(指数関数回路)が周波数制御部分で必須です。
多くのシンセサイザーでいろいろなバリエーションが見つかります。
良く見かけるので、回路図に出てくると、「ああ、アンチログだな」と読むことはできますが、
また、温度変化に弱くマッチングペアトランジスタによる補償回路が必要になることも、
それだけでは不十分で恒温槽に入れるか0.3%/℃の温度補償抵抗を入れる必要があることも知識としては知っています。
しかし、何故そうなるのか、という理屈になるとさっぱりわかっていません。特に0.3%/℃の数字がどこからくるのかずっと疑問だったので調べてみました。
アンチログ回路の基本原理
アンチログ回路においてどうやって指数関数という非線形曲線を得るか、という基本原理は簡単です。
トランジスタの立ち上がり部分では、ベース・エミッタ間電圧 Vbe とコレクタ電流 Ic の関係は非線形で、以下の式で近似できます。
Ic = a * Is * ( exp(q * Vbe / (l * k * T) ) - 1) ここで、 q : 電子の電荷 1.6e-19 [C] k : ボルツマン定数 1.38e-23 [J/K] T : 絶対温度 [K] l : Ic に依存する定数。通常は1と仮定する。 Vbe : ベース・エミッタ間電圧 [V] Is : 逆方向エミッタ飽和電流(逆方向漏れ電流) [A] a : ベース接地電流増幅率。約 1。 Ic : コレクタ電流 [A]
この式で、T = 300K (27℃)、l = 1とすると、kT/q は約 26mV となり、上記の式は以下のように近似できます。
Ic = a * Is * exp(q * Vbe / (l * k * T) )
この特性を下記のシンプルなアンチログ回路に当てはめると
eo = R * a * Is * exp(q/(l*k*T) * -ei) (式1)
となり、出力 eo は入力 ei の指数関数になることがわかります。
補償なしアンチログ回路の温度特性
(式1)での式で、eo に影響を与えるパラメータは ei だけではありません。
q、k、R は定数、a、l も定数と仮定して大丈夫(だそうです)として、Is と T が変動パラメータとして残ります。
T はそのまんま温度です。Is は通常 10e-14 A から 10e-11 A ぐらいですが温度が10℃高くなるごとにほぼ倍増します。
27℃において、T = 300 K ですから、この近辺での 1℃ あたりの絶対温度の変化は 1/300 = 1/3 % です。
0.3% が現れました。
この温度特性から、温度補償なしのアンチログ回路の出力は大きく温度の影響を受けてしまいます。
えーと、こちらのコメント欄で失礼します。
NE5517ですが、私はサンプル請求をしました (^^;) ぜひお試し下さい。
わかりやすい解説ですね。
まさに「こんな回路がでてきたらなんとなくそこらへんがアンチログ」という認識だったので、
非常に勉強になりました。
Chuck さん:おお、販売店が見つからなければそういう方法があるのですね。お知恵ありがとうございます。
ca3080 さん:コメントありがとうございます。この記事は前編で、補償回路がどう働くか、という後編もメモ紙に書いたのですが、仕事でおおはまりしてまた手が止まってしまいました。後編気長にお待ちください。
ステキ。
続きも楽しみにしてます。ちょうど知り合いがそこの部分の勉強をしているというメールを頂いたんでおしらせしちゃおっと。
takedaさんのご紹介で拝見に来ました。
丁度、調べているところで、嬉しいです。
アルゴ算法堂さんはじめまして。ウェブページ拝見させていただきました。シンセ書籍が懐かしかったです。私も何冊か持っています。「シンセサイザーの実験と工作」は非常に恩恵にあずかった本で、これまで作った回路は大体ここから取ってきています。今はインターネットがあるから情報が豊富ですが、当時は情報がほとんどなく、書店で見つけたときうれしくてすぐとびつきました。第1版第1刷です。しかし第2刷が出たのかは疑問ですね。
ganさん、ご挨拶が遅れました。
ウェブ、御覧頂きありがとうございます。
「シンセサイザーの実験と工作」、手元で確認しましたが、私の本も第1版第1刷でした。
この本のP28,29あたりにトランジスタのお勉強ページがあるのですが、ここで鋸波→三角波の変換例があります。これ使えばスイッチングなし、つまり、グリッジなしの三角波が作れるんじゃないかと、思っていました。
アナログ回路を触ることは無いだろうと、資料など箱に詰めてどこかにしまったのがん十年前。皆さんと、特にtakedaさんの熱気に当てられて、シンセの自作を始めようかと思っています(資料は未だ、探索中。腐海の底)。
貴重な記事を沢山、ありがとうございます。
アルゴ算法堂さんこんにちは。シンセの自作「シンセサイザーの実験と工作」をお持ちならこれを参考にするのオススメです。最近わかったことですが、ここに出てくる200番台のモジュールは Moog のモジュラーと回路定数を含めてほとんど同じです。回路はしっかりしていると思います。それに加えて回路の簡単な動作説明や製作時の注意点、調整の方法も丁寧に書いてあるので、とても親切な本だと思います。
Serge VCO Using LM3900
70年代のVCOだと思います。ネットにあった手書きの回路図を清書しました。
(この手書きの回路図には、明らかな間違いがありましたし、その後見たことのある本当のsergeVCOと回路図のスタイルが違うので、おそらく、基板からトレースしたものと思われます。読めない定数は「?」マークをつけてあります。)
図が正帰還になってる気がします。電流-電圧変換回路なので負帰還かと。
おっしゃるとおりです。ご指摘ありがとうございます。