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1. はじめに
Optigan は、1970年代に家庭で手軽に弾ける楽器として米国の玩具メーカー Matel 社から発売された光オルガンです。
見た目はこんな感じです
なんかいい感じです。音はどんなでしょう?
こ、これは... 素敵すぎます。
しかし、このオルガンはとうの昔に製造中止になっていて、日本国内での入手はかなり困難です。そして、よく調べてみたら、玩具として作られた Optigan を改良した Orchestron という楽器が別の会社から発売されていたことがわかり、それもまた気になるのですが、こちらもまた入手はほぼ無理... でも気になります。と、さらに調べると、なんと、Optigan も Orchestron も、光ディスクなら簡単に入手可能なことがわかりました。か、かっちゃおうか?楽器本体は?んー...作るか?
というノリで、光オルガンを作るプロジェクトを始めました。
2. 光オルガンのディスクはどんなものか?
注文したディスクが届いたので、いったいどんなものか調べてみます。まず外見はこんな感じ。左側が Optigan 用のディスクで右が Orchestron 用です。
Optigan のディスクは薄いしひっかくと簡単にキズが入りますが、Orchestron のディスクはシートがもっと厚いしキズもなかなかはいりません。ひっかきはあまり試しませんでしたが。確かに改良版のような印象です。 これらのディスクからどういう原理で音が出るかというと、それは単純です。
こんな風に、複数のトラックが環状に並んでいて、各々のトラックごとに波状のパタンが印刷されています。シートは透明で、白く写っているところは光を通します。光を当てながらディスクを回転させて、それを光センサで拾えば音になる、という原理です。 光をあててそれをセンサーで拾う様子はこんな風です。
回転するにつれ光が通るスリットの幅が広くなったり狭くなったりするためそれが電気振動となり、音になるのです。
本当に音が拾えるか実際に試してみました。
まずは上々です。
3. 基本設計
とりあえずの設計のゴールは、光オルガンのディスクが読めることとします。ディスクの回転機構を作るのが一番難しいことが予想されますから、ここは、廃品のアナログレコードプレイヤーを流用することにします。動画を見てもわかりますが、幸い光ディスクはLPレコードと同じサイズです。 つくりのイメージはこんな感じ
ターンテーブルから少し浮かせて透明アクリル板の円盤をおきます。そこに光ディスクを載せて、この円盤の上下からセンサとLEDではさんでトラックの読み取りをします。
アイデアは単純ですが、実際のつくりはどうなることやら。
4. ディスクの寸法を調べる
上のようないいかげんな図ではもちろん実際にはものが作れませんから、寸法も入った設計図を作る必要があります。その大元になる情報は、ディスクの寸法です。 ネット上で Optigan ディスクの仕様を探してみたのですが見つからず。現物の寸法を測ることにします。
一番内側と外側のトラックの半径を測り、ルーペで見ながらトラックの本数を数え、鼻歌まじりの楽しい作業。とりあえず後で使いまわせるように図面に起こしてみました。左が Optigan、右が Orchestron です。
トラックの数は、Optigan が58本、Orchestron が37本です。そして、ピッチを計算すると、1.397mm です。ずいぶんハンパな...と思いましたが、インチで考えると 0.055 inch。なんとかそれらしい数値です。
測った寸法から、各ディスクのトラックの位置と番号を割り出しました。 Optigan と Orchestron は、トラックの位置に互換性があるのですが(トラックの内容には互換性ありません)、なんとか同じ位置に収まってくれました。 再生装置は「どちらも読める」という風に作れると良いです。
5. 再生装置の設計
ディスクの寸法はわかったので、次にディスクを読み取るメカの設計です。メカは、レコードプレイヤーのアタッチメントとして製作します。測ったディスクのサイズをもとに、メカ部分の構成を考えます。
全体像はこんな風に設計しました。
最初のアイデアにしたがって、ターンテーブルから浮いた透明な回転円盤の上下にアームを伸ばし、下にLED、上にフォトトランジスタを配置します。フォトトランジスタはディスクのスリットの数だけ用意して、ひとつのスリットをひとつのフォトトランジスタで読むようにします。
6. 回転円盤アセンブリの製作
実際の製作にあたっては、全体に矛盾がないようにちょっと作っては全体の設計図に戻りバランスをとりながら修正し、を繰り返していたのですが、記事ではまるで迷いがなかったかのようにさくさく進みます。
最初に組み立てたのは、透明円盤を固定するためのアセンブリです。これは、二枚の円盤を向かい合わせて、エの字型のボビンの親玉みたいなものを組み立てます。
構成部品はこんな風です。
左側の小さい円盤は、CNCフライスを使って削りだしました。右側の大きな円盤は、アクリル屋さんからありものを購入、中心の穴は開けてもらいました。真ん中のアセンブリは、アクリルパイプとABS棒の削りだしを組み立ててあります。
ABS棒を削りだすには旋盤が必要なのですが、持っていないので、いつもお世話になっているNさんにお願いして削ってもらいました。パイプの切断はアクリル屋さんから購入するときに依頼しました。私がやったのは接着剤で部品をはり合わせるだけ。それだけなのに軸を少しずらしてしまいました。へぼですね。
ターンテーブルの上にアセンブリを置いて、ひとまず出来上がり。
でも、回してみるとけっこう円盤が上下に波うつのです。それに、アクリルはやわらかいので長期にわたって使っているうちに円盤が変形してくる可能性もあります。少しでも回転が安定するように、ミニ四駆用のスタビライザーホイールをあてました。
今度は良い感じ!
中途の動作確認です。このつくりで行けるかどうか再確認しました。
7. LEDアームの製作
設計図はこんな感じです。
左側に支持棒を置いてちょうつがいで固定。右側は回転軸にかるく噛ませるようにします。これだけだと当然アームがターンテーブルにこすってしまうので、何か浮かせる工夫が必要です。そこで、ここでもミニ四駆用のスタビライザーホイールを使いました。
アームを組み立てて、ターンテーブルに取り付けたところ。いい感じです。狙い通りに動いています。
ちなみに、メカ部分の材料は、透明なところ以外はABSを使いました。透明部分はアクリルです加工にはCNCフライス盤を使いました。
スタビライザーホイールの足を削りだすわが魔窟屈指のはたらきもの「けずる君」
8. センサーアームの製作
アームは二本製作します。それぞれを透明円盤の上下に配置します。下側はLEDアームでしたが、上側はセンサーアームです。全体設計の俯瞰図から見えているアームがそれです。左側は支持棒に固定します。右側は回転軸の上にかぶせます。この部分はそのまま作ると回転部と摩擦が生じるのでボールベアリングを入れます。
削りだして組み立てたセンサーアームとLEDアーム。
それらをターンテーブルに取り付けたところ。いい感じです!
9. LEDアレイの製作
メカ部分がなんとなく形になってきたところで、電気部分の製作も開始です。
まずはLEDアレイの製作。LEDはセンサと一対一になるように、光ディスクのいちトラックに対していちLEDとしました。
中途の経過をざっくり省略して点灯試験!
回路図は以下のとおり。トランジスタを使った定電流回路で明るさを制御しています。ベース電圧を変えると電流が変化します。
10. センサアレイの製作
一トラック分のセンサ回路は以下のとおり。センサアレイにはこの回路が58個並んでいます。
ハンダ付けはちょっと大変でした。以上。
11. 遮光板の製作
光オルガンを作るには、クロストークという大問題があります。これはオリジナルのオプティガンやオーケストロンにもあった問題で、オプティガンの改良型のオーケストロンでは、クロストークを目立たなくするためトラックの音の配列に工夫がされています。(五度進行になっている)
クロストークとはなんでしょう、と、あれこれ説明するより図を見ればそれがなんであるか一目でわかります。
まあつまり隣のトラックの音が漏れて入ってきちゃうんですね。当オルガンでもこの問題は発生します。ならどうすればよいでしょうか?これも図を見れば一目でわかります。
つまり遮光板でバリヤーしてしまえば良いのです。
ということで、遮光板作りました。
CNCの限界に挑戦!でした。
中心軸上にぽつぽつ空いている穴それぞれの奥に一個ずつフォトトランジスタが入っています。 ちなみに下側に空いている穴は遮光と関係なくそこについている抵抗器が遮光板にあたらないようにするための穴です。光と関係ないのでおおざっぱにあけてあります。
12. コントロール基板の製作
Optigan ディスクのトラックは58本あります。このオルガンはその58本のトラックを全て同時に読み取るので楽器として演奏するには、必要なトラックだけ選んで出力させなくてはいけません。ようはスイッチが必要です。
コントロール基板は、このスイッチングを行うのが主目的です。回路は以下のとおり。回路は単純ですがやたらと量が多いです。
センサーからの信号は、キャパシタを通してミキサ回路に入りますが、ミキサに入る前にアナログスイッチで信号を ON/OFF します。アナログスイッチは、ATMega88プロセッサを使って制御されます。マイコンからのシリアル通信で制御できるように、シフトレジスタが使われています。演奏情報はMIDIで受けます。MIDI信号のデコードはマイクロプロセッサで行います。
基板の出来上がりはこちら。
実装面積を小さく抑えるためにアナログスイッチには 0.5mm ピッチのデュアルのものを選びました。0.5mm の実装は初めてで慣れるまでかなりてこずりました。基板が所々茶色いのは取り付けにしくじった部品をはずすためにホットブローをかけたときに失敗して焼け焦げを作ってしまったものです。
13. ターンテーブルの改造
ターンテーブルにはあまり手を入れるつもりはなかったのですが、実装のときアームが少し邪魔だったので外すことにしました。芋づる式にアームを制御する機構をはずさなくてはならず、結局レコードプレイヤーとしての機構はほとんど取り外すことになりました。
それから、チューニングができるように、ターンテーブルの回転スピードを調整するダイアルをつけました。
14. 基板とアームの接続
ここまでくるともう一息です。完成したコントロール基板とセンサ・LEDアームから線を引き出して基板に接続します。ここはひたすらリード線のはんだ付け。技術的に難しいことはありません。必要なのは根気だけ。
15. ハコ入れしてハードウェア完了
ハコ入れといっても今回はあまり凝らず、アクリルを使った台に基板を固定しただけで済ませました。でも、外観を整えると完成したうれしさはひとしおです。
16. 最後にプログラミング
MIDI信号をデコードして NoteOn/NoteOff メッセージをスイッチの ON/OFF に変換します。アナログスイッチはシフトレジスタを介して制御しますが、制御信号はマイクロプロセッサから出します。
MIDI のノート番号と光ディスクのトラック番号の対応は、オプティガン用とオーケストロン用で異なっています。そこで、二つのマッピングテープルを用意して、MIDI ch1 で信号が来たときにはオーケストロン用のマッピングを使い、ch2 で信号が来たときにはオプティガン用のマッピングを使うことにしました。
MIDI制御では色んなギミックをつけようと思ってあえてオーバースペックぎみの ATMega88 を使いましたが、入出力ピンを出さずに実装したので入力はMIDIから入れるしかありません。そうすると、入力デバイスをMIDI対応にする必要があってこれはちょっと面倒です。なのでまだギミックは実装していません。
設計時にArduinoを使うかどうか少し迷ったのですが、Arduino にしておけば外付けの仕掛けも簡単に追加できました。ちょっと失敗したなーと思っている部分です。
17. 鳴らしてみよう
それから、曲も作ってみました。こんな感じの音になりました。
18. それからどうする?
まずはこの光オルガンをびしばし使って遊び倒そうと思います。使っていると、「ここをこうしたら面白いだろう。ああしたら面白いだろう」とアイデアが浮かんできます。それをネタにしてまた次の版に着手したいです。次の版は、今考えているところでは、こんなアイデアがあります
- ターンテーブルはDJ用の回転トルクの強いものを使いたい。ターンテーブルに穴を開けずにアタッチメントとして取り付けられるようにする。
- スクラッチしやすく作る
- 光源をフルカラーにしてみたらどうか
- 分周を行って音域を広げる
それからもうひとつ、光オルガンを製作しているうちに、ディスクじたいも自作したくなってきました。これも根気よく取り組んでゆきたいです。
最後まで読んでいただいてありがとうございます!
またまた面白いものを始めてますね!
日曜大工関連仕事があれば請け負いますよ!(木工ケースとか)
さいとう君コメントありがとう返事が遅くなってすまんね。
工作なんかコラボできるといいですねー。今度あって話ししましょう
素晴らしい。
すごいですね。
ついでにmellotronも作って欲しいです。
デモ曲を聴いていると、なんとなく、RADIO-ACTIVITYの頃のクラフトワークの
盛り上げ系の曲で使っている音に似ている気がします。
なんとなく、寸詰まりの音が良いですね。
一庵さんはじめまして。
うーむ、するどいです。クラフトワーク、RADIO-ACTIVITYやヨーロッパ特急でオーケストロンを使っているそうです。
この時期のクラフトワークがもう好きで好きで、というのも光オルガンを作った動機のひとつであります。
すばらしいの一言に尽きます。
オプティガンだけでレコーディングしてるらしいOptiganally Yours (http://www.youtube.com/watch?v=dT8dpkgHurc)を最近知ったので
ディスクの製作楽しみにしてます。一体どうやって作るのか想像すら出来ない、、
オーケストロンは一度だけ触ったことがあります。 ビンテージシンセ屋のFive5で20年前だったか? 面白そうだったが38万円は流石に出せなかった。
ありがとうございます。オーケストロンの実機に触られたなんてうらやましいです。私はオプティガンにすら触ったことありません。光ディスクの製作はぼちぼち開始です。今プロジェクト準備中です。いろいろとウェブサイトに上げてゆくと思うのでまた時々遊びに来てください。
スクラッチいいですねえ。でもどうしてスクラッチするとレコード盤と同じような音が出せるんでしょう? 不思議ですねえ。。。
コメント見落としてました。すみません。スクラッチすると本当にレコード盤と同じようになりますね。不思議ですね。
コードボタンとリズム隊は鳴らせますか?
鳴らせますよ。コードボタンとリズムボタンはどちらもひとボタンひとトラックが割り当てられています。そういうわけで、Optigan も Orchestron どちらも音域は3オクターブで、鍵盤には 37 トラックが使われていますが、Optigan のディスクは全部で 58 トラックあります。
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