マッチング測定回路の 上側のトランジスタをさしかえ、いくつかのトランジスタのベース・エミッタ間電圧を測り、それらの誤差が
±2mV以内に収まっているものがマッチングのとれたトランジスタであるという理解で大丈夫でしょうか?
はい、まずはそれを試してみてください。
Q5-Q6 および Q9-Q10 が対になっています。この二対のバランスをとってみて、それでも Q5、Q9 コレクタの電圧が3-4V から著しく外れているか確認してみてください。
なお、この測定は、温度の影響を強く受けるので、以下の点に注意してください
- 半田ごてで部品をはずしたら完全に常温に戻るのを待ってから測定してください。
- 測定中はトランジスタを指で触らないでください。動かすときには、電源をとめてからピンセットでつまむようにしてください。
- 測定回路において、トランジスタに流す電流を調整するときに誤って大きな電流を流さないように気をつけてください。
- 測定はなるべく短時間で済ませたほうが無難です。
ところで通常ベース・エミッタ間にはどのていどの電圧がかかっているのでしょうか?
先ほど回路を組み測定したところ0.6Vと非常に小さな数値となったのですが、これは回路を組み間違えているのでしょうか?
Q5, Q6 のベース・エミッタ間電圧が 0.6V 程度になるのは設計の意図通りです。Q9, Q10 のエミッタ電位がそこからさらに 0.6V 程度落ちるのも意図通りです。
トランジスタ Q5 と Q6 は、どちらもエミッタフォロワ回路を作っています。(以下のページが参考になります)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%BF%E6%8E%A5%E5%9C%B0%E5%9B%9E%E8%B7%AFhttp://blog.katty.in/318概念的にはエミッタフォロワ回路のベース・エミッタ間の電圧は 0V なのですが、現実のトランジスタでは、0.6V 程度電位差がないとベース・エミッタ間に電流が流れ始めないので、0.6V ぐらいの電位差がつきます。
Q5 と Q6 の(無信号時の)ベースの電位は、R11 と R9 によって 0V に決められています。この 0V は設計上まず狂わないです。
そのため、Q5 と Q6 のエミッタの電位はどちらもだいたい 0.6V ぐらいになりますが、ここの厳密な電位については、一致するような制御が入っているわけではありません。むしろ、トランジスタの特性によって、いわば「運」で決まっています。
トランジスタ Q9 と Q10 は差動増幅器を構成していて、Q9 と Q10 のベースの電位差 (= Q5-Q6 エミッタ間の電位差) はこの増幅器によって増幅されてしまいます。
Q9 コレクタの箇所は差動増幅器の出力なので、Q9、Q10 ベースの電位差の影響を受けます。つまり、Q5 と Q6 の特性がそろっていない場合 Q9 コレクタの部分の電位が影響を受けます。
そういうわけで、VCF 出力のバランスが崩れている場合、Q5 と Q6 のマッチングをとって、両者のエミッタ電位をそろえると改善する可能性があると考えています。
また、Q9 と Q10 の特性がずれていても出力のバランスが崩れる原因になります。
特性をそろえれば改善するか確証はないのですが、少なくともこの点は疑わなくてよくなります。
ちなみに、VCF 回路は Minimoog のものが元ねたで、この出力部分の回路も非常に近いのですが、実は Minimoog のサービスマニュアルには、これらのトランジスタはマッチングをとるようにと書かれています。ところが実際にいまどきのトランジスタの特性を測ってみると、ほとんどのトランジスタが問題ない程度に特性が揃っています。そのため書籍にはマッチングを必ずとるように、とは書きませんでした。でもまれに特性が大きくずれているトランジスタもあるので、製作時にはマッチングを取ったほうが安心ではあります。
Minimoog が作られていた 1970年代と比べると、現在では、トランジスタの精度が格段に改善しているのではないかと想像しています。Minimoog は一台一台全部音が違うとよく言われますが、トランジスタのばらつきの影響を受けやすいこういう設計が関係しているのかもしれませんね。